マーチャーシュ・コルウィヌス生誕580年を記念して制作した個人誌(小説)です。
こういう本を作りました
こういうお話です
西暦1456年11月。救国の英雄の長男フニャディ・ラースローは、亡き父に代わって人々の尊敬と期待を一身に集めていた。父とともに王国と正しき信仰を守るために戦い、宮中伯ガラの娘マーリアとの結婚も控えた彼の姿は、フニャディ一族を全キリスト教徒の希望と見なす者たちの目に、新たな希望そのものと映っていた。
しかし、フタクからナーンドルフェヘールヴァールに帰還した彼の表情には憂いがあった。年若いラースローに対して注がれた大貴族たちの油断のならないまなざしは、一代にして膨れあがったフニャディ家に対する負の感情がいまだ健在であることを示している。そしてその一方で、異教徒の攻撃と疫病の猛威によって勇敢な戦士たちは疲弊しており、彼らが国王とその一派、とりわけ側近のツィレイに対して抱く不満は高まるばかりだった。
今、マジャル国内が混乱に陥ったならば、異教徒どもはその隙をけっして見逃さないことだろう。8年前の戦いでの失態から自身を父の不肖の子と見なしていたラースローは、わが身にのしかかる重圧やけっして拭い去ることのできない劣等感と戦いながら、懸命に英雄の跡取りとしての使命を全うしようとする。
彼のもうひとつの気がかりは、亡き父が今わの際に口にした「おまえの弟は臆病者だ」という言葉だった。父の子として申し分のない才能の持ち主であるはずの弟・マーチャーシュと父とのあいだに、いったい何が起きたのか。その謎を追求する暇もなく、ある日ラースローは奇妙な光景を目撃する。ひとつは国王ラースローとマーチャーシュが親しげに会話する姿、そしてもうひとつはマーチャーシュを殺意に満ちた目で追う不審な影だった……。
こういうコンセプトで執筆しました
- オペラ《フニャディ・ラースロー》を典拠として、王の横恋慕やエルジェーベトの幻視などのオペラの要素をあえて残しながらも、愛国心に訴える描写を排し、オペラではいまいち影の薄いフニャディ・ラースローを主人公として明確に物語の軸に据えた小説を書く。
- ラースローの役柄を偉大な父の遺産を受け取り、父にはできなかったかたちで弟に託すという存在として設定し、「自分を見損なってきた騎士が、父の遺した名声や政敵の陰謀に苦しめられながらも生きた証を見出し、そして死んでいく」という一貫したテーマを表現する。
- オペラのストーリーを知っている読み手を良い意味で裏切る展開を盛り込む。その一環として、「もうひとりのラースロー」である国王を、善にも悪にも振り切れないどっちつかずのキャラクターではなく、強さと弱さの両方を内包した複雑な人格として描く。
- 「主人公の弟」としてのマーチャーシュを、のちの強大な王としての片鱗を感じさせる強烈な個性の持ち主として描く。
感想・反省点など
- 主人公の成長物語として、当初表現したいと感じたことはおおむね表現できた。文章力や背景となる時代の記述・描写についてはまだまだ改善の余地あり。今、読み返すともう少し文章の改行があってもいいと思われる。
- マーチャーシュは勇敢で計算高いものの、その激情がどこへ向かうかわからない危うさを持つキャラクターとして満足のいく描写ができた。国王ラースローもなかなか魅力的な性格づけができたと思うが、終盤の描写はどこかマーチャーシュの引き立て役のように読めないこともなく、やや不本意だった。オペラのストーリーを裏切る展開は、自分が読みたいと思うものを盛り込めた。
- 執筆には丸8か月かけた。予定した期間内で仕上げられた点にはとても満足している。