エルケル・フェレンツ(Erkel Ferenc)とエグレシ・ベーニ(Egressy Béni)による、1844年初演の、全四幕・全編ハンガリー語のオペラのストーリーの要約です。
物語の背景
西暦1456年。当時勢力を拡大しつつあったオスマン帝国の軍勢が、ハンガリー王国南部の都市・ナーンドルフェヘールヴァール(現在のセルビア、ベオグラード)に押し寄せた。指揮官フニャディ・ヤーノシュ率いるハンガリー軍はこれを撃退し、その勝利は奇跡と称えられた。
ヤーノシュはオスマン軍の撤退後、時を待たずして戦地に蔓延する疫病により命を落とすものの、フニャディ家の名声はいや増すばかりだった。その後、当時のハンガリー王が急逝すると、ヤーノシュの次男である年若きマーチャーシュは新たな王として選出される。マーチャーシュ王の統治のもと、中世ハンガリー王国は最後の栄光の日々を現出する。しかし、ヤーノシュの死からマーチャーシュの即位に至るまでのあいだには、フニャディ家の人々はもうひとつの大きな喪失を経験しなければならなかった。
第一幕
救国の英雄の長男として人々の信望を集めるフニャディ・ラースローは、弟とともにナーンドルフェヘールヴァールにいた。彼は宮中伯の娘マーリアとの結婚を控える身だったが、周囲には依然、成り上がりの一族であるフニャディ家の人々を快く思わない者たちがひしめいており、その表情はすぐれない。報告によれば、若き国王ラースロー(ドイツ人の王ラディスラウス。以下「王」)の縁者であり、フニャディ家の長年の敵であるツィレイ・ウルリクが権力を掌握し、しかもフニャディ家の人々の抹殺を目論んでいるという。
ラースローはツィレイが仕掛けた罠を暴き、問い詰めようとするが、逆上したツィレイはラースローに切りかかる。丸腰だったラースローは咄嗟に支持者たちの助けを求め、ツィレイはフニャディ家の支持者たちの手によって殺害される。
駆けつけた王に、ラースローはツィレイがセルビア公と結んだ裏切り者であると説き、赦しを乞う。頼みとするツィレイを失った王は恐怖心から彼らを赦し、彼らの殺人の罪を咎めることはしないと約束するものの、王の心の中には怒りと復讐の念が渦巻いていた。王は、ツィレイが囁いた「フニャディ家の者たちはあなたの王位を狙っている」という言葉に惑わされていたのだった。
第二幕
ラースローと支持者たちがツィレイを殺めたという知らせは、フニャディ家の居城テメシュヴァールにも届いていた。ラースローの母であるエルジェーベトは、わが子が罪人として処刑人の斧に斃れるという不吉な夢を見て戦慄する。やがてそのラースローが弟とともに、王や宮中伯ガラを伴ってテメシュヴァールに帰還すると、エルジェーベトは王に縋り、その慈悲を求める。
王は寡婦に対して慈愛に満ちた態度を見せるものの、彼の視線はラースローの婚約者、宮中伯の娘のマーリアに釘づけとなる。王はマーリアの美しさに心を奪われてしまい、それを察した宮中伯は一人ほくそ笑む。宮中伯もまた、さらなる権力への野心とフニャディ家に対する敵意を秘め隠していたのだった。
一方、愛するわが子との再会を喜びつつも、エルジェーベトは一抹の不安を拭い去ることができない。母子は王がみずからの約束を違えることのないように、神の前で王の誓いの言葉を求める。王は彼らの求めに応じ、人々が見守る中、改めてフニャディ・ラースローを罰することはないと神に誓いを立てる。
第三幕
マーリアとの結婚を控え、ラースローはブダにいた。彼はもうすぐ義理の父となる宮中伯を訪ね、密かな懸念を打ち明ける。王の誓いの言葉を疑うわけではなかったが、王の周囲には若き王を操ろうと目論む者たちがいる。彼らの甘言が王を惑わせないともかぎらない。
宮中伯は内心の悪意を巧妙に隠し、結婚式のあとすぐにテメシュヴァールに戻りたいというラースローの願いを聞き入れるふりをする。そして、マーリアへのかなわぬ恋慕の情に苦しむ王の耳もとに、ラースローを反逆者として処刑し、マーリアをわがものとするようにと囁くのだった。ツィレイを殺害された恨みを再燃させた王は、たやすく宮中伯の口車に乗せられてしまう。
そうとも知らず、まもなくラースローとマーリアは結婚式の日を迎えるが、幸せに満ち足りた二人の前に兵士たちが乱入し、ラースローはその場から連行される。
第四幕
暗く冷たい牢獄の中、ラースローは自分が罪びとではないと証明されることを信じていた。牢番を欺きマーリアが恋人のもとへ助けに現れるものの、法の公正さを信じるラースローは不当な手段で去ることを望まない。しかしそこに宮中伯が現れたことですべてを察した彼は、刑の執行を受け入れ、もしもできることなら天国で結ばれようとマーリアと約束を交わす。
一方、処刑場へ駆けつけたエルジェーベトは必死に息子の無実を叫ぶも聞き入れられない。処刑人の前に跪くラースローは集まった人々に対し、自分が潔白であることは天がご存じだと宣言する。
人々が見つめる中、処刑人の斧が降り下ろされるものの、斧は三度続けて虚しく空を切る。人々はそこに神意を見て取り、ラースローは王に改めてみずからの無実を訴えようとする。しかし、王の答えはない。宮中伯の命令とともに無情にも四度目の斧が降り下ろされ、処刑場にはエルジェーベトの悲痛な叫びが響き渡るのだった。