この文章は「魔界塔士Sa・Ga」の内容に触れています。
子供のころ、クリアできなかったゲーム
昔遊んだRPGの中には、その当時クリアできなかったという作品も多い。何しろこちらはまだ子供で、頭の中に広く応用の利く攻略のためのセオリーが蓄積されていなかったから仕方がない。加えて昔のゲームは、今ほどわかりやすくも親切でもなかった。
ファミコンの「ウルティマ 恐怖のエクソダス」は、もう少しシステムの詳細な説明があれば、もっといい作品になっていただろうにと思う。わたしが初めて遊んだのは小学生のときで、クリアしたのは大人になってから。敵を倒して経験値を稼ぎ、王さまに会うとその経験値に応じてレベルが上がって、それに伴い敵も強くなっていくというシステムを採っているのだが、こちらがレベルアップで強化されるのはHPのみ。対する敵はどんどん強いのが出現して、普通に徒党を組み遠隔攻撃してくる。多少慣れた今なら「レベルを極力上げずにパーティを強化できる手段を探せばよくね?」と考えるだろうが、よりにもよって当時のわたしはこの「エクソダス」が初RPG体験だった。おまけに攻略本にまで「まずはレベル5まで上げよう」みたいなことが書かれているんだよね……。本の記述を疑いもせず、「このゲーム難しいな」なんて考え、いつの間にか遊ぶのをやめてしまった。前述のとおり、クリアできずに投げ出したRPGはそれなりにあったけれども、「エクソダス」は初めてのRPGということで思い入れのある作品だったから、心残りだった。
そうした事情もあって、大人になってからふと「あれってひょっとしてこんなふうに進めればいいのでは」と考えて無事にクリアできたときの達成感ときたら、格別なものがあった。ファミコンのゲームなんてとうに過去のものになった時代にあって、プレイヤーを感動させるものは何もストーリーや演出に限ったことではないとそのとき改めて実感したものだ。
「魔界塔士Sa・Ga」の理不尽な体験
クリアまで理不尽な苦労をし、それゆえに感動も大きかった作品といえば、ほかに「魔界塔士Sa・Ga」がある。せっかくだから書かせてほしい。このゲームの存在を知ったのは雑誌がきっかけだった。世界の中心の塔を上っていくというストーリーや、モンスターの肉を食べて変身するのがおもしろそうと感じたのを覚えている。
難易度そのものはさほどでもなかった。パーティはにんげんとエスパー、そしてモンスター2匹で、敵が落としていった肉はすべて美味しくいただくスタイル。おかげで強くなったり弱くなったりしながらも、すぐに海洋世界まで進んだ。理不尽な目に遭うのはここからだ。
船代わりの浮き島に乗って、くうきのみを入手し、大渦に進入して海底に移動する。そして竜宮城でボスキャラのせいりゅうを倒し、再び地上へ……ところが戻れない。なぜ? 雑誌に付属していた攻略の小冊子には、それらしいことなどまったく書かれていない。本来ここは、行き詰まるようなポイントではないのだ。そのうち発売された攻略本にも、当然、海底から地上に戻るための詳細な方法なんて書かれていない。来たときと同様に、ただ浮き島に乗って大渦に入ればいいだけなのだから……。
スクリーンショットがないのでわかりにくい説明になるが、このときわたしが覗き込んでいる画面では、乗ってきた浮き島と大渦が最初から重なってしまっていた。先頭キャラクターは浮き島には乗り込むことができるものの、浮き島が最初から大渦の上にあるせいか、大渦に重なったときの処理が行われない。つまりは地上に戻ることができない。町などに出入りして画面を切り替えてもこの状態は変わらなかった。
後年知ったことだが、これは初期ロットのROMでのみ発生する進行不可能なバグらしい。
けれどもその当時のわたしには、それがゲームの開発者すら想定しない問題であり、通常の進行はもはや不可能なのだという考え自体がなかった。バグの発生後にセーブしてしまっていたから、文字通りの「詰み」だったにもかかわらず、自分の進め方に何か問題があるのかとあれこれ悩み、いろいろ試したりした。地上に戻るために海底でまだやり残したことがあるのでは? せいりゅうを倒したつもりで、本当はまだ倒していなかったのでは? 等々。悩んだ末に、確か雑誌の「ゲームのお悩み相談室」のコーナーにもはがきを送ったくらいだった。もちろん、回答なんかなかったけれど……。
バグにはバグで
何をどうしても状況は変わらなかった。わたしのパーティは海底に閉じ込められてしまったのだ。
それでいて不思議なのは、あのころのわたしに最初からやり直すという頭がなかったことだ。ときどき思い出したようにゲームを起動して、海底をうろうろしたりするものの、もちろん状況は変わらない。そのうち、海底で流れるダンジョンのBGMを聞いただけで気が滅入ってくるようになってしまった。今でも正直あの曲だけはいやーな気分になる。
思わぬところから海底脱出の糸口が見つかったのは、それからしばらく経ってからのことだ。
この裏技は、知っている人も多いと思う。扉や階段などで画面が切り替わる瞬間に戦闘に入ると、(確か戦闘終了後だったと思うが)本来の移動先とは異なる場所に移動できるというもの。わたしが読んだ雑誌によれば、この裏技は使う場所によって移動先も変わり、竜宮城からは10階の空中世界にワープできるという。幸い、竜宮城には階段のすぐそばをうろついている雑魚敵がいる。まさに今のわたしのためにあるような裏技ではないか!
もちろんこれもバグといえばバグで、途中のストーリーもフラグもすっ飛ばして移動するわけだから、後期のロットでは修正されているようだ。それでも、海底に閉じ込められたわたしのパーティには天の助けとしか思えなかった。
かくしてわたしは10階へ。何がなんだかわからないものの空中世界でグライダーに乗り、この世界のボスキャラのびゃっこと戦っていた。ストーリーの辻褄が合わないことは、この際二の次だったようだ。これで先に進むことができるという思いがあっただけ……まさしく捨てるバグあれば拾うバグありというわけだ。
苦労があったからこそ……?
今思えば、魔界塔士Sa・Gaはバグの多いゲームだった。そしてそんなバグの多さを差し引いても、後々のサガシリーズの元祖となるのにふさわしい、独特な魅力を放つ作品だ。
何よりも、限られた容量やグラフィックの中での演出が冴えている。最上階への道筋で目にする挑戦者たちの名や、シェルターに遺された父親のメッセージ、そしてやがて明かされる「かみ」の意図。シンプルなテキストだからこそ、ずしりと響くものがあった。
有名なラスボス戦のあれだって、わたしにとっては偶然が生んだ劇的な演出だった。こちらの攻撃はまともに当たらず、敵の攻撃は次第に激しくなり、「せめて何か有効打を……!」と藁にも縋る思いで繰り出した仲間のモンスターの「のこぎり」がヒットした。戦いの幕引きは意外なものだったが、それを呆気ない結末とはまったく感じなかった。そして、扉の向こうにあるかもしれない楽園ではなく、自分たちが歩んできた世界へ引き返すというあの清々しいエンディング。
けれどもあの作品にはもう少し冷めた見方もあって、わたしにとって、あのエンディングが感慨深いものとなった何よりの要因は、例のバグの存在ではなかっただろうかとも感じているのだ。もう永久に海底から出られないかと思った。もう冒険を続けられないのかと思った。なのに予想外の手段によって旅を続行することができ、ついには塔の最上階にたどり着いた。無事に冒険を終えることができた。途中であんなアクシデントがなければ、そして理不尽なバグの影響すらゲームクリアの感動の一因として取り込めた柔軟さがなかったら、わたしにとって魔界塔士Sa・Gaはそれほど大きな作品にはならなかったかもしれない。